田中正造について 天皇へ直訴 足尾銅山鉱毒事件

歴史の話

近現代の偉人として石橋湛山、渋沢栄一のページ開いてきましたが、次は田中正造です。

芦尾銅山鉱毒事件の追求と被害民の救済に半生をかけた田中正造。彼の没後111年となる9月4日に、正造の本葬が行われた栃木県佐野市の春日岡山惣宗寺(佐野厄除け大師)で112回法要があり、約110人が参列したそうです。一般財団法人の「田中正造記念協会」の主催で行われ、恒例の記念講和で話された蓼沼恒夫理事長は、正造の有力支援者であった蓼沼さんの祖先である蓼沼丈吉に依頼し、同志だった黒沢酉蔵が復学する際の学費支援を続け、後に乳業メーカーや酪農学園大学を創設した黒沢も育英事業に力を入れたエピソードなどを紹介。人を育てることや正造の精神を後世に伝えることの大切さを訴えました。地元の栃木県佐野市では、今でも正造の遺徳を忍んで、毎年法要の際に講話が行われているようです。

田中正造という人物は、足尾銅山事件の際に明治天皇に直訴したことで知られていると思います。天皇に直訴するなんてありえない、暴挙だといった印象を持つ方もいるかもしれません。

しかし、身を挺してまで人のために生きようとしたその姿は、もっと検証されるべきですし、その生き方から学ぶことも必要なのではないでしょうか。

敗北の人生

政治家の中には、「坂本龍馬のようになりたい」「高杉晋作のように生きたい」といった発言を耳にすることがあります。さらに、原敬、犬養毅、高橋是清、そして私が取り上げている石橋湛山などを模範とする人もいるように思います。

しかし、田中正造を模範として「このように生きたい」と熱望する人物は、あまり多くないのではないでしょうか。それは、正造の生き方が政治家としてはあまりにも頑固で壮絶であるためだと思われます。正造は国会で歳費の値上げに反対し、それが受け入れられないと辞退しました。さらに、問題の解決に役立たないと判断すると、惜しげもなく国会議員の職を捨ててしまいました。また、全財産も放り出しました。

正造は足尾銅山の鉱毒事件を追求し、野蛮と呼ばれ、狂人と嘲られながらも突進し続けました。一時は成果を挙げましたが、運動は挫折してしまいます。家を壊され、泥水に使った村に移り住み、無一文となって運動に奔走しました。家も金もなく、着の身着のままで過ごし、シラミが付いた汚い着物で過ごし、最終的には立ち寄った家で亡くなりました。亡くなった時には、数冊の本と石ころしか持っていなかったと言われています。このような人生を展望すると、「敗北の人生」と言わざるを得ないのが実情です。

中途半端な生き方を嘲られるような

「敗北の人生」と思われかねない正造の生涯は、あまりにも悲惨です。このような姿を見てしまうと、多くの政治家が「これが理想だ」「田中正造のように生きたい」とはなかなか言えないのが本音ではないでしょうか。

しかし、正造の姿を見ていると、自分の質素な家や財産を所有していることが恥ずかしく感じられることもあります。普通の人よりもつつましいから良いのだ、という中途半端な気持ちは、正造の前では弾き飛ばされるように感じます。

「お前は、もっと身を挺して人のために生きよ」と、正造に叱咤されているような気がします。この正造の生き方を学ぶと、誰しもそのような思いになるのではないでしょうか。

このような先達が日本の歴史に存在することがわかるだけでも、日本人にとっては非常に幸福なことではないでしょうか。

田中正造になりたい

命を惜しまず、自らの正義に殉じて行動し続けた田中正造の精神は、最後の最後まで貫かれていました。

「田中正造になりたい」

このような政治家が一人でも多く現れると、日本の政治は崇高なものとなり、国民はその恩恵を享受できるようになると思います。政治の分野だけでなく、自らが生きる分野で、それぞれの人がその分野の田中正造を目指すとき、日本の未来は大きく飛躍し、明るく輝くようになるはずです。

正造は国家の悪逆に対して一歩も引かず、農民の人権を守るために戦い抜きました。相手は万能の強権を持った明治政府であり、当時は現代のようにマスコミやSNSが存在せず、人権も十分に主張できる時代ではありませんでした。こうした時代に、万能の国家を相手に様々な戦い方を考案して挑んだのです。

正造の闘争は敗北に終わりましたが、彼自身は死ぬまで戦う姿勢を崩すことはありませんでした。一度は途絶えたものの、現在は地元の人々が正造の遺志を受け継ぎ、顕彰しています。100年以上経った今、本当に勝利したのは正造であり、敗れ去ったのは明治政府だったと言えるでしょう。強大な国家権力に対して、裸の人間が微動だにせず立ち上がり、そうした者たちが次々に続いていくとき、正造の理想が完結するのは間違いないはずです。

そのような正造の姿と行動について、さらに触れていきたいと思います。

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