石橋湛山 おいたち 5⃣ 東洋経済新報社で再スタート

石橋湛山

石橋湛山は「東京毎日新聞」に入社し、ジャーナリストとしてのキャリアをスタートしましたが、経営難もあって退社し、その尾後は徴兵検査を受けて入営しました。

そこでの経験が、彼を反戦論者に仕立て上げ、それがやがて東洋経済新報社に入社して花開くことになります。

東洋経済新報社へ入社

明治43年(1910年)11月末、除隊直後の田中穂積から湛山に対し、東洋経済新報社のお話が持ち込まれました。同社では新たに月刊誌「東洋持論」の編集記者を探していました。田中は新報社の副主幹である三浦銕太郎と早稲田大学の同窓生でした。そのため、12月に湛山は三浦の面接を受けることになりました。その際、湛山は三浦に論文「福沢諭吉論」を提出しました。この論文自体は現在残っていませんが、のちの湛山の言論から推測すると、福沢を合理性を備えた文明批評家として高く評価したと思われます。

湛山は三浦の期待に応え、翌明治44年(1911年)1月から新報社の社員となりました。これにより、湛山は言論人として再スタートを切ったのは26歳の時でした。その後、新報社は湛山にとって戦後の昭和21年(1946年)5月に政界入りするまで、35年にわたる言論活動の拠点となり、まさに「新報社の湛山」かつ「湛山の新報社」となるのでした。


東洋経済新報社とは

新報社は、日清戦争終結から半年を経た明治28年(1895年)11月、「報知新聞」の記者でイギリス留学を終えたばかりの町田忠治によって創設され、月3回の旬刊誌「東洋経済新報」を発刊しました。我が国における経済専門誌の草分け的存在である「新報」は、イギリスの「エコノミスト」と「ステチスト」を模範とし、単に経済の分野にとどまらず、政治・外交・社会・教育・文芸など幅広い領域を扱い、主として経済界関係者、政府官僚、社会人、大学生などのインテリ層を読者対象としました。

ただし、町田は2年足らずで日本銀行に転じたため、大隈重信の推薦により、明治30年(1897年)3月、早稲田大学教授の天野為之が新報社を引き継ぎました。

天野は第1回の衆議院総選挙に改進党から立候補して当選しましたが、次回の総選挙で落選し、以後、学会並びに言論界で活躍した人物です。特に彼はジョン・S・ミルの研究で知られ、明治期における三大経済学者の一人と称されると同時に、高田早苗、坪内逍遥とともに早稲田大学の三尊として高く評価されていました。

この天野時代に新報社の基礎が固まり、イギリス流の自由主義・合理主義・経験主義の伝統や反藩閥・反軍閥の気風が確立されました。たとえば、日清・日露戦争後の軍部の跳梁及び政治的干渉を厳しく批判し、陸海軍大臣の文官制や軍備削減を提唱する一方、経済面では民力休養論を標榜し、政府が推進する保護貿易主義を排斥して、門戸開放主義を主張しました。この間、「新報」の発行部数は3千程度から5千程度へと飛躍的に伸び、当時の専門誌の売り上げとしては良好でした。ちなみに、深井英五(日銀総裁)や武藤山治(鐘紡社長)らは初期の段階から「新報」の愛好者であったと言われています。

片山哲との出会い

湛山が入社した時点では、天野はすでに退任しており、天野の門下生である植松孝昭が第3代主幹となっていました。植松は旧彦根藩士の家に生まれ、明治29年に東京専門学校英語政治学科を卒業し、2年後に新報社に入社しました。彼は特に政治・社会評論で頭角を現し、選挙権の拡張、政党内閣制度の確立、労働法の制定などを主張しました。そして明治40年に天野の跡を継ぎました。この植松時代に「新報」は経済専門誌の枠を超え、政治・社会の領域へと拡大し、特に民主主義の観点から普通選挙の実施を迫るなど、政府批判の姿勢を強化しました。これにより、のちの三浦および湛山時代に確立される新報社の徹底した自由主義、民主主義、平和主義の論調の基盤が形成されるのです。

主幹の植松を補佐したのが三浦でした。三浦は静岡県志田郡の豪農山下家の出で、結婚時に三浦姓を名乗りました。彼は植松と東京専門学校の同期生(年齢は三浦が2歳上)であり、植松より2年遅れで新報社に入社しました。その後、植松とともに天野を支え、天野の引退後は副主幹格となりました。そして、三浦は湛山の恩人の一人となりました。

当時の新報社は牛込天神町にあり、木造二階建ての洋館でした。社員は、編集部員が植松・三浦の両幹部を加えて9名、営業部員が4名、給仕・小使いを含めて合計17名という陣容でした。注目すべきは、湛山と同じ編集部に社会主義者の片山潜がいたことです。

(続きます)

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